ホピ族でいう無限宇宙や創造主タイオワは「無」で、それは世界各地の創世神話で様々な言葉で表現されている。この無から神が生まれ、その神が天地や人間を創造する形式となっている。これは宇宙誕生のビッグバンも表している。


・ナイジェリアや西アフリカに分布するフラニ族の神話では、巨大な一滴の乳。始まりのとき、巨体な一滴の乳以外には何もなかった。それから創造神ドゥーンダリがやってきて、石を作り出した。石は鉄を作り、鉄は火を作った。火は水を作り、水は空気を作った。ドゥーンダリは再び地上に降りてきて五つの元素から人間を作り出した。

・西アフリカのマリ共和国のドゴン族では、はじまりの世界には宇宙すらなく、天の創造神アンマのみが存在していた。アンマは言葉から宇宙を生み、次に最初の生命キゼ・ウジを創造し、キゼ・ウジは原初の子宮の「世界の卵」を産む。

西アフリカのダホメのフォン人では、先駆的に存在していた物質。ここから神マウ・リサは宇宙を創造し、形成し、そして秩序づけた。マウは女性でリサは男性。蛇の力が夫婦神マウ・リサの息子ダに体現され、この宇宙の秩序づけを補助している。蛇が虹の中に現れるとき、「男性は赤い部分で、女性は青い部分である」。ダは大地の上方で3500のとぐろを巻き、下方でも同じ数のとぐろを巻き、これらのとぐろはマウ・リサの創造を助けた。


・ナイジェリアのヨルバ族では、沼地のようなカオス。最初、世界はじめじめとした、海でも陸でもない沼地のようなカオスであった。その上の空には至高神、オロデュマレ神が住んでおり、偉大なるオリサンラ神に世界を創るよう命令し、陸と海が作られる。天上ではオロデュマレが最初の人間を創りはじめた。

・別のヨルバ人の伝承では、茫漠(ぼうばく)たる荒れた沼地。狩猟者オグンはもともとは大地が形づくられるより以前に存在していた茫漠(ぼうばく)たる荒れた沼地に、蜘蛛の糸によって降りてきた。


中央アフリカのピグミー族では至高の霊コンヴム。「はじめに神がいた。今日も神がいる。明日も神がいるであろう」。形がなく永遠なコンヴムは、動物(普通はカメレオン)の仲介によって人間と接触している。世界の創造の後で、彼は天空から地上へ最初の人間たち(ピグミー族)を降ろした。その後、多様な動物と植物を提供した。

・中央アフリカのクバ族の神話では水。世界の最初にはただ水しかなかった。そこで巨大な創造神ブンバは、嘔吐(おうと)して、太陽、月、星を吐き出した。これらによって光が生じて、世界に熱が生まれ、水が乾いていった。


・オーストラリアのアボリジニ神話の一つでは、無限の砂漠。この世の始めに、虹蛇のエインガナはたった一人で無限の砂漠に横たわっていた。エインガナはそれに飽き、地上に存在する全ての生き物を生み出した。

・別のアボリジニ神話では、海しかない世界。根元神で虹蛇のウングッド(ウングル)は、海しかない世界で海底の泥が集まって生まれ、己しかいない寂しさを失くすために命を生みだそうと考える。 そこでまずブーメランで海を撹拌(かくはん)して泡立て、その泡で巨大な大地を作り上げ、そこに無数の卵を産んで生命を増やしていった。

・タヒチでは闇。世界に何も無く闇だけの頃、タンガロアが住む大きな貝殻だけがあった。タンガロアは自分の住んでいた貝殻をゆっくりと高く高く持ち上げた。それは大きな天の半球となり、空(そら)になった。

・ミクロネシアのマリアナ諸島の神話では虚無。世界最古の存在は、プンタンという巨人とその姉妹で、かれらは虚無の中でただ二人きりで暮らしていた。プンタンは死ぬ前に姉妹に遺言して、自分の世界から世界を造らせた。彼の胸と肩から天と地が造られ、両目は太陽と月となり、まつ毛からは虹ができた。

ポリネシアのツアモツ諸島では、アテアという原初の動く天空空間、形のない存在。アテアとその妻ファアホトゥから最初に生まれたのが呪術師(じゅじゅつし)タフ。

ポリネシアのタヒチ島では創造神タアロア。タアロアは「孤独のうちに成長した。彼には父も母もおらず、自分が自分自身の両親であった。タアロアの原始状態は理解を超えていた。彼は上でも下でもあり、石のなかにもいた。タアロアは神の家であった。彼の背骨は棟木(むなぎ)となり、彼の肋骨(ろっこつ)は支えとなった」。次にこの神は殻を割り、生まれ出て、砕けた破片の上に立ち上がった。原初の暗闇のなかを凝視して、彼は自分がたった一人であることを理解した。(中略)彼自身の姿を人間の姿として、この神は現在宇宙にある万物を創造した。異説では、タアロアは、自分の身体の頭以外の部分から宇宙をつくった。


・ハワイのクムリポという神話では、昼のない永い夜ポー。地母神パパと天空神ワケアが固く抱き合っていたため、外から光が射し込めなかった。このポーの暗闇からサンゴ虫、次にフジツボとナマコ、魚植物、爬虫類、鳥、犬や豚、神々が生まれた。神々は抱き合ったパパとワケアを無理やり引き離し、世界が光で満ちあふれた。その後、人間も生み出された。

・エジプト神話では、原初の大洋ないし混沌ヌン。混沌ヌンからラー(アトゥム)が誕生した。

・バビロニアの創世記叙事詩エヌマ・エリシュでは、父親で淡水の海アプスーと混沌を表す母ティアマト。はじめにアプスーがあり、すべてが生まれ出た。混沌を表すティアマトもまた、すべてを生み出す母であった。

・ギリシャ神話ではカオス(混沌)。天と地と海が造られるまで世界は見渡す限りただ一つで、カオス(混沌)と呼んだ。それは一つの混乱した形のない塊(かたまり)で、おそろしく重たい物であったが、その中には物の種子が眠っていた。神と自然がついに手をくだして、海から地を切り離し、地と海から天を切り離して、その混乱を整理した。

・イスラム教の聖典コーランでは無。神アッラーはまず無から万物を創造し、またそれを引き返し給(たま)う。アッラーは天と地を無から創り出し、暗闇と光を置いた。彼こそは生ける神、永遠(とわ)に在るもの。

・ユダヤ教に基づいた神秘主義思想カバラでは、アイン(無、0)。アインからアイン・ソフ(無限)が生じ、アイン・ソフからアイン・ソフ・オウル(無限光)が生じた。

・キリスト教の新約聖書のヨハネによる福音書では、言(ことば)。初めに言(ことば)があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は、初めに神とあった。万物は言によって成った。

・キリスト教の旧約聖書の創世記では「無」に該当する名称はないが、その後の神が登場する。「はじめに神は天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は『光あれ』と言われた。すると光があった。神はその光とやみとを分けられた。神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日である。」

・イラクのクルド人のヤズィーディー教でも「無」に該当する名称はないが、
その後の神が登場する。「神は自身の顕現(けんげん)である七大天使を生み出した。また神は壊れた真珠のような球から宇宙を作り、七大天使の長で孔雀の姿をしたマラク・ターウース(Melek Tawusi)を地球へ送る。地球には神によって作られた不滅で完璧なアダムがいた。」